第3回目は、県内で人気の家系2店のお二人に対談をお願いしました。これまでの2回の対談はいずれも初対面というシチュエーションでしたが、今回はご近所の家系同士ということで、もちろん面識はあるので最初から話は弾んでいきました。豚骨醤油に太麺、どちらも「家系」というカテゴリーに属する2軒ですが、修業先も求めてる味も違う、果たしてどんな話題が飛び出すのでしょうか…。

 1967年東京生まれ。18歳の時にトラック運転手に。運転手時代に出会った「本牧家」の味に衝撃を受けて31歳で同店へ修業に入る。1999年、中央区生実町にトラック時代の仲間と2人で「中野家」を開業。そして翌年本千葉に移転し、屋号を「末広家」と改める。以後千葉屈指の行列店になっている。2002年には千葉拉麺四天王としてカップ麺『濃厚とろ塩』『濃厚とろ醤』などの開発も手がけた。

 1974年埼玉生まれ。生後間もなく北海道へ。札幌、旭川といったラーメンの聖地で幼少期を育つ。14歳の時に千葉へ。ラーメン屋を志し、19歳で浦安に背脂ラーメン店を開業する。1996年には中央区弁天町に旭川ラーメン店「ますや」を開業し人気店に。2000年富士見に移転。しかし家系ラーメンに目覚めて「壱六家」など数軒で修業後、2001年屋号を「増田家」に改め家系の店に。2003年には居酒屋業界への進出も果たした。

中田「いやぁ、お待たせしてすいません。増田さん、腹空いたッス。ラーメン食わして下さい。」

増田「もうないですよ(笑)。営業終わっちゃいましたから。」

中田「なんだ、食べられると思ったのになぁ(笑)。でも今日は楽しみにしてたんですよ。四天王の時も思ったんですけど、よその厨房っていいッスよね。ここはお店広くていいッスねぇ。使い勝手いいんじゃないですか?」

増田「いや、狭いッスよ。ここ(カウンターとテーブルの間を指さして)がもうちょっと広ければ…」

中田「十分じゃないですか!うちなんかカウンターの後ろ、申し訳ないくらいに狭いッスよ!お客さんに迷惑かけっぱなしですよ。」

増田「いやぁ、もう何センチか広ければって思いますよ。中田さんのところは(厨房の)ステンレスが綺麗ですよね。うちの店はなんか傷ついてムラになっちゃって。」

中田「金ダワシかなんかでこすっちゃうと傷ついて曇っちゃいますよね。」

増田「あ〜、やっぱしね。傷ついちゃうんですよね。」

中田「増田さんのとこって(メニューは)何が出ますか?」

増田「うちは中ですかね。中に玉子が多いですかね。中田さんのところは?」

中田「うちは海苔増し。あ、ホウレンソウがあった時はレンソウ増しも多かったですね。そうだ、増田さん。ホウレンソウどうします?」

増田「困っちゃいますよね。今の状況じゃまだ使えないですし。お客さんにも聞かれてしまって…。」

中田「うちのお客さんなんか『農薬ついててもいいから入れてくれ』って言う方がいますけど(笑)さすがにそんなの無理じゃないですか。」

増田「お客さんはレンソウ好きですよね。中田さんのところって万能ネギですよね。どうして万能ネギなんですか?」

中田「色をまず考えたんですよ。ビジュアル的に緑が欲しかったんですけど、ワカメは嫌だったんです。でも他の緑色野菜、葉物は結局ホウレンソウに限らず厳しいじゃないですか。国産は高くて使えないですしね。」

増田「国産使ってレンソウ増しって言われたら店が潰れちゃいますね(笑)」

中田「だから万能ネギなら緑だし、スープも邪魔しないかなと思ったんですよ。でも正直売上げは落ちましたね、ホウレンソウが無くなったら。レンソウ増しって結構出てたんだなって数字を見て実感しましたよ。」

増田「僕はモヤシにしたんですけど、悩んでるんですよ。ワカメも考えたんですけど、うちのラーメンはキクラゲが乗っているからぶつかってしまうかなと思って。でもモヤシは確かにビジュアルが弱いんですよね。うちは白髪ネギ乗せるメニューもあるんですが、そうなると丼の中が真っ白になっちゃって綺麗じゃないんです。モヤシはシャキシャキした食感を選んだんですが、それはそれで浮いているかも知れない。モヤシ抜きで、っていうお客さんがいるということは、具の選択としては正しくないのかなと思っているんですよ。」

中田「あとはやっぱりホウレンソウって鶏油と合うと思うんですよね。その代わりになるものが見つからないんですよ。」

増田「ホウレンソウ出したいですよね。問屋的にはOK出てますでしょ?」

中田「大丈夫だよって検査証貰ってもね、あてにならないっていうか。この間ニュースでもやってましたけど、関西空港に入ってきた中国産の葉物も全滅だったでしょ?まだ当分見込みはないのかなって思ってます。」

増田「紙切れ一枚じゃ安心出来ないですよね。当分は我慢して頂くしかないですね。そうだ、具といえば海苔って最近どうです?」

中田「一時期よくなかったですけど、最近戻って来ましたね。固いし、香りもいいですよね。増田さんはどこの海苔ですか?」

増田「うちは兵庫海苔です。横浜の業者さんから入れて貰って。7月まではよかったんですけど、その後ちょっと状態悪くて。弱くて倒れちゃうんですよね。いいヤツだと厚くて口の中でモゴモゴしなくて、パリッとするんですよね。その海苔の時の方がやっぱり海苔増しが多く出ましたね。今回ちょっとそれですったもんだして、業者さんに結構文句言ったりしてね。」

中田「うちの兵庫ですけれど、やっぱり毎回同じものは入ってこないですよね。今回の箱はよかったな、ダメだったなとかそういうのがありますよね。焼きが違ったりすることもあるし。千葉の海苔もいいって聞いたことがあるんですけど。」

増田「千葉もいいらしいですね。あとは瀬戸内、香川とかもいいらしいッスね。」

中田「ところで、バーナーの火力が凄いッスね。夏場むちゃくちゃ暑いんじゃないですか?炊きっぱなしでしょ?」

増田「暑いです(笑)。空調も足したんですけど、全然ダメですね。換気が悪いみたいで、風通しよくすれば少しはいいんでしょうけど。」

中田「でもやっぱり広くていいなぁ、この店(笑)。厨房がちょっと高いんですよね、いいなぁ。お客さんよく見えて。」

増田「話は変わりますが、中田さんのところはやっぱり給料日前の方が忙しいですか?」

中田「雨とかだと暇になりますよね。平日や休日でも違いますしね。」

増田「うちはどの月も第3日曜が一番忙しいんですよね。」

中田「平日と日曜じゃ客層がぜんぜん違うでしょ?」

増田「日曜はもう家族連れがほとんどですね。うちは座敷があるので、それを知っているお父さんが、普段一人で食べているラーメンを家族連れて食べにきてくれるんですよ。そういう時に限ってスープが今一つだったりすると、ホント申し訳なくて泣きたくなりますよ。『お父さんが美味しいっていうラーメンってこんなの?』なんて責められているんじゃないかって。」

中田「家系は他のラーメンと違って回していきますからね。どうしても時間帯によって状態が変化するスープですから…っていうか、明日のスープの火はつけなくていいんですか?」

増田「いや、今日はつけないです。明日の朝つけますから。」

中田「えー!?明日ですか?水から炊いて間に合いますか?無理でしょう?」

増田「いや間に合いますよ。朝7時には火入れますけど。」

中田「マジっすか?濃度も大丈夫ですか?」

増田「濃度も大丈夫だと思うんですけど。中田さんは前日からなんですか?じゃあ火曜日なんかどうしてるんですか?月曜日お休みじゃないですか。」

中田「火曜日のスープは月曜日に作りますよ。何回か火を入れてチェックしながらやります。」

増田「でも家系のスープは手間かかりますよね。営業時間中に何回も立て直さないといけない。昼過ぎくらいに薄くなってくるのを、骨足してそれでも濃度上がって来ない時は、ガラとか抜いて新規で炊き直さないと使えないですし。雑味が出てくるのも処理していかないといけないですしね。」

中田「いい流れってあるじゃないですか、家系の場合。お客さんが集中してもダメだし、全く来ないのもダメ。」

増田「そこそこ(オーダーが)出ている方がスープの状態もいいですよね。全く出ないで足して足してとやっていると、段々嫌な臭いになってきてスープがおかしくなっちゃいますよね。一杯ずつでもちょこちょこと出ている方がスープの状態はいい。」

中田「ここだと昼なんか大変でしょう?オフィス街だし、集中してドカーンとお客さんが来るじゃないですか。」

増田「全く止まらないと厳しいですよね。1回くらい止まってくれるとそこで持ち直し出来るんですけど。鶏油も甘みが出てればいいんですが、出ていなかったらもう閉めちゃいますよね。この間もお客さんのスープの残りが異様に多い時があって、とにかく従業員にはスープの飲み干しとか見て気になったら言えって言ってるんです。それで、一度お店閉めてスタッフ全員でラーメン食べてみて、鶏油捨てて作り直したりとかしましたね。」

中田「あ、分かりますよ。鶏油は丸鶏も使っているんですよね。」

増田「はい。丸鶏も入れたときは最初甘くて甘くて、結構大変だったですね。」

中田「メイン(の寸胴)に入れてるんですか?」

増田「いや、入れないですね。入れちゃうと自分の入れて足してという流れが乱れちゃって。うまく思ったようにまとまらないんですよ。なので鶏油の方で使ってますね。」

中田「増田さんのスープはわりと乳化してるタイプですよね。」

増田「一時期鶏を強くして鶏油も張ってっていう時もあったんですけど、何か違うなぁと思って元のスタイルに戻したり、色々やってます。」

中田「一つ聞いていいですか?家系、横浜ラーメンをやろうと思ったわけじゃないですか。どこのラーメンを食べてやろうと思ったんですか?」

増田「やっぱり自分が習いにいったところですね。正直他の家系を食べた時に、ちょっと油とかしつこいなと思ったんですよ。それで家系なんてどこも一緒だろうなと思って壱六家を食べたら、そこはすっきりしてて口にも残らなくて、家系美味しいなって思ったのがきっかけですね。」

中田「じゃあそこの作り方でやっているんですか。」

増田「実は開店前に何軒かで教えて貰ったんですけど、やっぱり作り方は師匠のところの作り方がメインですね。」

中田「そうなんですか。」

増田「豚骨を以前からやりたかったんですよ。最初が背脂ラーメンやって、それから旭川、魚系をやって、次は豚骨だなって。その時に家系を旨いと思ったので、次はこれだって思ったんですよ。で、今はあっさりした支那そばがやりたいんですよね(笑)」

中田「聞いてますよ(笑)。華の蔵さんに色々教わったらしいじゃないですか。」

増田「そうなんですよ。大澤さん(華の蔵店主)すごくいい人で、僕なんかにかえしとか色々作り方を教えてくれたんですよ。でも難しいですね、支那そばは。鶏そばみたいにはしたくないんで、色々試してみているんですけど。でも、家系もまだ全然極めてないから、その後かなって思いますけど。」

中田「それで、そもそもラーメンを始めたのは何故なんですか?」

増田「僕は小さい時からラーメンがすごく好きで。それで頭あんまりよくなかったんで(笑)親から『あんたは大きくなったらラーメン屋さんになりなさい』って言われていたんですよ。で、中学の時北海道から千葉に来て、色んなお店食べに行ったんですけど、千葉に僕の好きなラーメンがなかったんです。だから自分の好きな味は自分で作ろうって思ったのがきっかけですね。」

中田「でも好きだからってそう簡単には出来ないでしょう。ノウハウとかはどうしたんですか?」

増田「最初はチェーン店のバイトで厨房入ったんですよ。そこで見たことが反面教師になって(笑)。ただラーメン屋やりたくたって金なんかないじゃないですか。そんな時、19の時でしたが、知り合いの社長さんが遊んでいる物件を持っていて、家賃を倍払えるなら一年間好きに店を使っていいよって言われて。それで浦安に店を出すことにしたんですよ。昔の友達と一緒に始めたんです。年中無休、夜中の3時までっていう。独自で味を研究しながら、無謀と言えば無謀なんですけど。1年間丸々一生懸命寝ないでやったんで、お金が出来たんです。そのお金を元にして弁天町に店を持ったんです。」

中田「そうなんですか。そういう苦労があるから、しっかりしたラーメンが出来るんですね。増田さんは自信があるって分かるんですよ。僕なんかと迷うポイント、迷う部類が違うと思います。」

増田「そんなことないですよ、中田さんは家系の先輩じゃないですか。ところで、中田さんから見て僕の家系ラーメンはどうですか?」

中田「僕、増田さんの家系初めて食べた時に『豚骨醤油』より『豚骨』に近いと思いましたね。すごくすっきりとしたスープだなって思いました。ベースが強いスープだなって。だから濃度はあるけど臭みのない、すっきりしたラーメンにしたいのかなって思いました。」

増田「あ〜、白濁系は好きですからね。『山頭火』とか『マルバ』さんとか。最近なら『ヨシベー』さんもいいなって思います。中田さんとこのは厚いですよね、層が。食べていてじわじわと味が変化するっていうか、波があるんですよ。うちのは一回味が来てそのまんまっていうか。アクションがないスープなんですよね。」

中田「僕はスープの中に色んな味を求めちゃうんですよ。甘い、醤油の旨さ、スープの旨さが現れるような。でも若い人を見ているとけっこう濃度を求めているんですよ。そういう意味では増田さんのラーメンは濃度があるから満足するんじゃないかなって思いますね。ベースがすごくしっかりしているから。だてに10代からラーメンやってないなって思いましたね。僕なんかと較べたらラーメン歴ぜんぜん長いから。」

増田「いえいえ、とんでもないです。だって以前中田さんに相談して、鶏油のコツをちょっと教えて頂いたじゃないですか。あれでタイミングを変えて見たら香りがよくなりましたね。」

中田「え?俺教えましたっけ?俺じゃないでしょ。」

増田「あれ?そんなことないですよ。あ、野中さん(中田さんの相棒)に教わったんだったかな。」

中田「あ、あの野郎〜(笑)。でもタイミングは本当に重要なんですよね。香りが全然変わりますから。」

増田「中田さんは本牧家に感動したんですよね。」

中田「そうです。まだ間門に本牧家があった頃で、朝から一人で全部やってるんですよ。これ凄いなあって思って。味ももちろん旨くて感動しましたけど。一つ一つの作業も丁寧で、あれが理想ですね。」

増田「この間地方に行って、すごい家系食べましたよ。作り方もひどいんですけど、友達と一緒に行って友達は中を頼んだんですよ。でも間違って並が出てきたんです。それを言ったら『すみません、じゃあ半麺足しますんで』って言われて(笑)食べていたら『麺上がったんで丼上げて下さい』って言われてそこに麺を入れられたんです。」

中田「マジっすか?すごいな、それは。」

増田「それだけじゃ終わらないですよ(笑)。それからその上に醤油の元ダレをジャバってかけちゃうんです。そして子供用の小さな器を出してきて、そこに豚骨スープが入ってきて『濃かったらこれで調節して下さい』だって(笑)。もう呆れちゃいましたよ。家系とか以前に同じラーメン屋として、それはお前違うだろうって。」

中田「そこまでは酷くないけれど、僕も似たような経験をしたことがありますよ。お客さんに申し訳ないですよね、そういうのは。」

増田「他のラーメンもやったことあるから分かるんですけど、家系ほど難しいラーメンはないと思うんですよ。それをあんな風にされちゃね。」

中田「家系のスープは回して作っていくスープじゃないですか。だから他のラーメン屋さんのスープと違って、ぶれというか波が激しいですよね。状態が常に変化する、溜め置きが出来ないスープじゃないですか。だから家系は一番難しいんじゃないかと思う時がありますね。時々思いますよ、このスープを極められたら他のラーメンも、ものすごいラーメンも作れるんじゃないかって。そのくらい家系は難しいし、奥が深いと思っています。吉村さんが作った、このラーメンは凄いなって思いますよ。」

増田「本当にそう思います。他のラーメンだとブレが少ないですもんね。こんな気を使うスープはないですよ。」

中田「家系は時間によってぶれがある。それを無くさないといけないんだけれど、その維持していくことが難しい。」

増田「お客さんはどの状態のスープに当たっても600円は600円ですからね。」

中田「今だから言いますけど、俺は家系が好きで修業に入って店を始めたじゃないですか。でも、なんでこんな難しいラーメンを選んでしまったんだろうって思うことがありますよ。なんでこんな大変なことやってかなきゃいけないのかって。野中と2人でいつも話すんです、楽しいって思ったことないなって(笑)増田さんも思いませんか?」

増田「思いますよ。すごくよく分かります。」

中田「俺だけじゃなかったんですね、よかった(笑)。ところで、増田さんの夢って何ですか?」

増田「最終的な夢はですね、色んなラーメン覚えて作れるようになったら、ラーメン村みたいなのを作りたいですね。で、そこは経営するだけで。僕自身はすごく小さなお店で儲けを考えないで、自分の好きなラーメンを作る、そういうのがやりたいッスね。」

中田「僕は修業先のマスターみたいに、朝から仕込からなんでも自分一人でやって。しかもヨンパチの寸胴一本で回すんです。で、出来るだけゆっくり回転する店で、お客さんと会話が出来るくらいの。そういう店というか、そういう職人になりたいッスね。」

増田「今日はすごく勉強になりました。これからもよろしくお願いします!」

中田「こちらこそ!俺増田さんのラーメン食べたいんで、定休日うちと同じにするのやめて下さい(笑)」