第2回目は、松戸稔台のらーめん大吉店主・廣瀬功さんと、同じく松戸稔台の新店、麺屋嘉夢蔵店主・藤井宏明さんの「ご近所」対談。同じ町でラーメン屋さんを営むお二人。ラーメン屋さんとしては、廣瀬さんが先輩ですが、藤井さんは20年来製粉会社で麺の開発などを研究されてきた強者。麺に最近悩まれている廣瀬さんも、色々教わる部分があったようです。そんなお二人の対談は、麺の話はもちろん、ラーメン屋稼業がいかに大変か、ラーメン屋さんでなければ分からない思いをぶつけあうことに。

 1944年愛媛生まれ。終戦後家は東京へ戻り、新橋で少年時代を過ごす。和菓子屋から始まり、様々な仕事に就くが、都内の製粉会社に就職。以来粉のエキスパートとして、「支那そばや」「勇次」など数々のラーメン店の製麺のサポート、アドバイスを行ってきた。自然食などにも造詣が深く、麺についての知識もあることから、2002年7月、「麺屋嘉夢蔵」を開業、幅3cmの極巾広麺などで一躍話題となる。

 1964年東京生まれ。バイクや車のレースなどに傾倒するも、食の道へと進む。和食の厨房から始まり、居酒屋などの厨房も任され、様々な創作メニューを考案。その後大好きなラーメン稼業に身を投じる決意をし、末廣らーめんで修業を重ねて、都内で屋台ラーメン店を開業。2001年に稔台に「らーめん大吉」を開業し次々と創作ラーメンを発表する。2003年体調不良により惜しまれつつもラーメン店は廃業。

廣瀬「はじめまして。楽しみにして来ました。」

藤井「こちらこそ掲示板にお返事ありがとうございました。」

廣瀬「私の店も近くなもんで、ぜひ伺いたいと思っていたんです。藤井さんは元々こちらの方なんですか?」

藤井「生まれは四国なのですが、すぐ東京へ戻ってきましたので、日比谷というか新橋のあたりで育ったという思いが強いですね。GHQの本部近くにNHKがあった頃で。コールタールで塗りつぶされたNHKがあった、その想い出がありますね。今は(みのり台)駅の反対側に住んでいますので、歩いてここまで通えるんです。」

廣瀬「そういう場所をお選びになったんですか?」

藤井「やはりお店をやるとなると、通うのに近い方がね。家の近くにここの物件があったので決めたんですよ。ここは前はお寿司屋さんだったり、居酒屋さんだったようなんですけども。」

廣瀬「そうですね。いや、実はここの不動産屋って私の義理の父がやっているんですよ(笑)」

藤井「そうでしたか!いや、奇遇ですね(笑)」

廣瀬「では早速頂きたいんですけれども。何がお薦めなんでしょうか?」

藤井「麺は平打ちと、太いのと細いの、3種類あるんですよ。」(麺箱を取り出して見せる)

廣瀬「うわぁ、この麺はすごいですね。きしめんやフェットチーネよりも全然太い。3cmくらいの巾はありますね。」

藤井「私は元来ラーメン店をやっていたわけではないので、先入観がないんですよ(笑)。麺の食感や粉の旨さを考えていったら、この巾になったんです。私はこの麺が一番特徴があって、うちの麺らしいと思います。」

廣瀬「ではお薦めの平打ち麺を頂きます。」

藤井(圧力鍋を準備しながら)「一つ一つこうやって圧力鍋を使って茹でますので、多少お時間がかかりますけれど。その分普通の茹で方とは違う食感や美味しさが楽しめると思いますので。」

廣瀬「藤井さんの会議室の書き込みを見て、その圧力鍋というのがどうにも気になったんですよ。どうやって使うのかな、どんな食感になるのかなって。すごく興味を持ちました。」

藤井「プロのラーメン屋さんはまずやらないでしょうね。だいいち面倒臭いですから(笑)」

廣瀬「そうなんですよね(笑)。まず手間だったり利益だったり、そういうことを考えてしまいがちです。」

藤井「私は製粉会社に長いこといましてね、そこで粉や麺の研究をずっとしていたんです。そうすると小麦粉の特性というか性格が分かってきた。そもそも小麦粉はしっかり加熱しないと消化不良を起こすんですよ。しっかり茹でたものをゆっくりと食べて欲しい、そういう思いを持っていますので、結果としてこういう形になりました。」

廣瀬「なるほど」

藤井「小麦を美味しく食べるのにはどうしたらいいんだろう?という疑問に対しての、自分なりの答えなんですけれども。まぁ、自分は自分のやり方でやればいいのかなと。」

廣瀬「鹹水は使っていないんですね。」

藤井「出来るだけ自然のものを使おうと決めたんですよ。ですから麺には地鶏の有精卵を使っています。他のお店の4倍の量は入れているんじゃないかな。だからラーメンと呼ばずに、うちでは「卵麺」で「らんめん」と呼んでいるんです(笑)お待たせしました。」

廣瀬「それでは、いただきます。麺はご自分で打たれているんですね。」

藤井「そうです。そもそも付き合いのあるラーメン屋さんに、粉についてのアドバイスや試作品を作ったりして、麺は作れたんですよ。このあいだも町田の『勇次』さんが食べに見えて下さいました。あの方も麺についていろいろ悩まれていましたから、お付き合いがあったので相談に乗っていたんですよ。」

廣瀬「それがいつの間にかご自分でお店を(笑)」

藤井「色んなラーメン屋さんを焚き付けてきたんですよ(笑)。麺は自分で打てとか、こうすれば出来るとかね。そう言っていた自分がやらないのは潔くないじゃないですか(笑)。だったらそれを自分で証明しようかと。」

廣瀬「それでも製麺は難しいでしょう。私もやってみたいとは思っているんですけど、なかなか。」

藤井「私が製粉会社にいた時に、麺打ちを薦めていたのは、別に粉を買って欲しいからじゃないんですよ(笑)。コストが安くなるという以前に、麺は絶対自分でやった方がいい。麺があてがいぶちでは、理想のスープやラーメンは作れないでしょう。確かに製麺屋さんに色々作って貰うことも出来るかも知れませんが、ロットが大きくなってしまって少量は作れないとか、色々問題はある。それならば自分で作れれば少量でも実験が出来るわけですから。」

廣瀬「なるほど。確かにスープを何とか工夫して麺に合わせようという、麺を活かしたいという作業になってますね。」

藤井「それはラーメン屋ではないんですよね。ラーメン屋はスープを作るだけのスープ屋になってしまいます。ですから麺を実際に作るかどうかはさておき、製麺屋にプレッシャーを与えられるように知識を持っていないと。」

廣瀬「そうなんですよね。というのも、今つけ麺の麺をどうしようか悩んでいるんですよ。」

藤井「といいますと?」

廣瀬「出した当初はいいんですが、食べ進めていく後半になって麺がどうしてもダメになっていくような気がして。そこで麺を冷凍してみようかと思っているんですが。」

藤井「確かに冷凍のうどんとかありますよね。麺はどの状態で冷凍するつもりですか?」

廣瀬「生麺の状態です。」

藤井「それは加水が低くないと完全に凍ってしまって乾燥しちゃいますよ。冷凍するなら茹でてから冷凍です。理想は冷凍しても凍らない工夫が必要だと思いますが。」

廣瀬「冷凍しても凍らない?」

藤井「糖類を添加するということです。アイスクリームが完全に凍らずに柔らかいのと理屈は一緒です。ただ、どちらにしても冷凍すると小麦粉本来の味は落ちますよ。」

廣瀬「そうですよね。しかし麺は奥が深いですね。」

藤井「製麺機のメーカーはマニュアルさえあれば出来ますと言いますが、そんな簡単なものではないですよね(笑)。製麺機一つ一つにクセ、個性があるんですよ。その個性が分からないと機械もうまく使えないですから。」

廣瀬「機械が2つありますが、こちらの機械は撹拌用ですか?」

藤井「そうです。本来はパン用の機械なんですけれど。」

廣瀬「いや、ごちそうさまでした。美味しかったです。いつでも食べられるラーメンという感じですね。昼夜問わずに、すっと食べられる自然な感じがしました。」

藤井「ありがとうございます。この太さだと延びもそんなにないと思います。麺線が細いとどうしても延びは早くなるんですよ。」

廣瀬「歯ごたえもあって、美味しかったですよ。加水はどのくらいなのですか?」

藤井「32%ですね。加水した後に寝かすのですが、うちは麺帯ではなくそぼろ状の固まりの状態でまず寝かします。空気を含ませるんですね。麺帯になってから寝かすのと、最初の段階で寝かすのではまた食感が違って面白いですよ。夏場は卵の入れ方も変わりますし。」

廣瀬「しかし毎回毎回ああやって圧力鍋を使うのは大変ですね。」

藤井「もちろん食感の問題もあるのですが、茹で湯を取り替えたいという気持ちもあるんです。うちの麺は無鹹水ですから、鹹水は関係ないですが、麺には1%くらいの塩も入っているんですよ。そうすると茹で湯を変えないと塩がスープにも移ってしまうんですね。バランスが取りづらくなるというのもあるんです。」

廣瀬「無化調のスープなんですよね。すっきりして優しい味でした。」

藤井「仕事柄色々なラーメン店を見てきましたが、やはり化調の呪縛はありますね。料理人がはまると逃げられないのが化学調味料だと思います。化調を入れるだけで、それまで悩んでいたバランスをまるくまとめてくれるんですから。便利と言えば便利なんですよ。でも、せっかく出ていた他の旨味の部分を均一に均してしまう部分がありますよね。」

廣瀬「それも利益云々の部分だと思うのですが、正直700円じゃやっていけないんじゃないですか?これだけの素材を使ってこの値段は安いですよ。無化調で味を出すとなるとどうしてもコストがかかってしまいますよね。」

藤井「そうなんです(笑)。しかし自分が美味しいと思うものでないと、お客さんに出せないんですよ。儲からない商売をしています(笑)。」

廣瀬「それでこのようなお店にされたんですね。スローフードのお店を。」

藤井「動物じゃないですから、私たちは。やはり食事くらいゆったりと楽しんで貰いたいじゃないですか。最近食べるところを囲って人に見せないようにしているラーメン店がありますよね。あれを見てしまうと、なんだかブロイラーが餌を食べているみたいで嫌なんですよね。」

廣瀬「確かにそうですね。食事という感じではないですね。」

藤井「ブロイラーと言えば、一度ブロイラーのもみじを使おうと思ったんですよ。しかし使えなかった。というのも、足の裏にタコが出来ているんです。狭いところで金網に掴まってずっといるでしょう。そうするとああいうタコが出来るんですね。あれを見たら使いたくなくなった。うちの卵などに使っている鶏は地鶏で、完全に野放しの鶏ですから、足の裏がきれいなんですよ。そういう鶏と較べてしまうと、ブロイラーは使えないです。」

廣瀬「そうですね。」

藤井「しかし、いくらそういう素材を使っても、万人受けする味は難しいですね。うちに来られたお客さんでも『違うなぁ』と首を傾げて変えるお客さんもいらっしゃいますよ(笑)。」

廣瀬「それは仕方ないことではないでしょうか?私のお店でもそうですよ。」

藤井「皆さん化調に慣らされているというのか、どぎつい味を求めているんでしょうか。」

廣瀬「しかしそれが過ぎるとカップ麺になってしまいますから。」

藤井「私はカップ麺あまり食べないんですが、あの容器は使えますね(笑)あとは麺を鍋で茹でて、スープは使えないので自分で作って…」

廣瀬「それじゃカップ麺の意味ないですよ(笑)」

藤井「そうですね(笑)。しかしカップ麺は好きじゃないですね。メーカーの人には申し訳ないけれど(笑)」

廣瀬「ところで、藤井さんは開店される時にチラシとか撒かれたんですか?開店したのを知らなかったもので。」

藤井「今回、千葉拉麺通信さんに書き込んだのが最初です。麺を分かる方に来て頂きたかったので。チラシを撒いて人がたくさん来てしまっても、ご覧の通り2人でゆっくりやるお店ですから、困ってしまいますし(笑)。ドカドカ来るのではなく、チョボチョボ来て貰えたらいいなと。廣瀬さんは?」

廣瀬「私は半々かな(笑)。でもやはり急に人に来られても、お客さんに満足いくものが出せる自信がないですしね。私も開店してこちらのサイトに書き込ませて頂いたんですよ。藤井さんもゆっくりやられたらいいと思います。」

藤井「しかし、やってみてつくづく思いましたが、この仕事は好きでないと出来ない過酷なわりの合わない仕事ですね。他のラーメン屋さんをすごい!と思いますよ。」

廣瀬「私もこの時期仕込が一番嫌です(笑)。寸胴の前にいたくないです(笑)。」

藤井「廣瀬さんのお店は豚骨ですよね。」

廣瀬「そうです。骨を使ってスープを取っています。だから夏場は厨房が熱くてたまらないです。」

藤井「私も最初骨を使ってやってみたんですけど、旨味を追求しようとすると、豚にしても鶏にしても徹底的に下処理が必要で。それをやってみたら、これは体力が持たないぞと(笑)。よく他のラーメン屋さんは、毎日こんなことをやっているなと(笑)。しかし、もう若くもないですから。そこでうちは骨を使わないスープにしたんです。それでも一つ一つのダシを合わせるのが実に難しくて…。」

廣瀬「確かに手を抜けない仕事ですよね。割が合わない過酷な稼業だと思います。」

藤井「ラーメン屋さんが凄いと最初に思ったのは、やはり佐野さん(支那そばや)との出会いですね。佐野さんとは粉の関係で親しくさせて頂いてて、よく藤沢やラ博のお店にも顔を出していたんですが、佐野さんを見ていると『壮絶』の一言です。妥協が一切ない。奥様やお弟子さんにも徹底して容赦がない。そしてお客さんの前でももちろん神経を尖らせて…。後は東池袋大勝軒の山岸さん、足を悪くされているのに狭い厨房で頑張っていらっしゃる。ああいう姿を見せて頂くと、この商売は壮絶以外の何物でもないですね。」

廣瀬「そうですね。」

藤井「佐野さんや山岸さんに限らずですが、ラーメン店って真剣勝負ですよね。しかもオープンキッチンで客の目の前で作業を見せる。これだけでも精神的に良くない仕事ですよ。調べて見たらラーメン屋さんって平均寿命が他の仕事よりも短いかもしれないですよ(笑)」

廣瀬「そうですね、私もやはりいつもラーメンのことを考えますし(笑)。今日もこうして藤井さんの作業を見せて頂いて、自分なりに消化出来たらこんな風に使えるかなとか、ついつい考えてしまいます(笑)。」

藤井「それなら今度うちの厨房に麺を持ってきて実験してみたらいいですよ。較べてみないとやはり分からないですからね。やってみましょうよ。」

廣瀬「ありがとうございます!それではいつかお言葉に甘えてお邪魔します。これからもご近所ですし、よろしくお願いします。」