記念すべき「拉麺トーク」第1回目は、松戸五香の13湯麺店主・松井一之さんと、成田のらーめんはじめ店主・板橋一彦さんの「麺」対談。この道ウン十年、麺について全て知り尽くしている松井さんに対し、試行錯誤している中で、ぜひ松井さんに色々と麺の話を聞きたいという板橋さん。実はお2人は一つ違いで同年代。同じ時代を駆け抜けてきた同年代対談は、麺をテーマに進んでいくうちに、いつの間にか製麺クリニック状態に…。

 1954年東京生まれ。日本大学農獣医学部を卒業後、明星食品株式会社に入社。即席麺の開発を長年に渡り担当するも、自分の店を持ちたいという夢を叶える為に退職。亀有にコンテナを改装した店「13湯麺」を開店。1996年には支店を南流山に、1998年には本店を五香に移転した。業界初のラーメンユニット「千葉拉麺四天王」として、2002年にはカップ麺『濃厚とろ塩』『濃厚とろ醤』などの開発も手がけた。

 1953年、東京生まれ。高校1年生の時に東池袋大勝軒のラーメンに衝撃を受けて、密かにラーメン屋に憧れるが断念し、別の仕事に就く。しかしラーメン屋への夢は捨てきれず会社を退職し、2001年12月に念願のラーメン店「らーめんはじめ」を開業する。2002年には憧れの東池袋大勝軒の厨房で店主山岸氏から直々に指導を受ける。2003年、ラーメンユニット「麺魂」にも参加。大晦日ラーメンイベントでも活躍する。

板橋「はじめまして。なんだか緊張しちゃいますよ(笑)」

松井「こちらこそ!よろしくお願いします」

板橋「一度お店に伺いたいと思っていたんですよ。これで四天王のお店は全て制覇しました(笑)」

松井「ありがとうございます!お店は成田でしたっけ?結構かかったでしょ?」

板橋「車で1時間くらいでしょうか。私は住まいがここと成田のちょうど中間あたり、印西なんです。」

松井「え?成田の人じゃないんですか。なぜ成田にお店を?」

板橋「元々東京生まれなんですけど、5年程前に千葉に越して来たんです。それでラーメン店をやると決めて、地図にコンパスで自宅から30分で通える場所を考えたら成田になったんですよ。」

松井「あ、俺も東京なんですよ。亀有なんですけどね。」

板橋「私は町屋です。お近くですね(笑)」

松井「ところで、うちのラーメンはいかがでしたか?」

板橋「いや、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。スープと麺だけというアイディアはどこから生まれたんですか?」

松井「ラーメン屋やる前に明星食品で麺の開発をしていたんですよ。それで色々なラーメン店を仕事で食べ歩かされてたんですが、会社として盗みたい味は麺とスープなんです。だけど当たり前のことなんですが、どこのラーメン屋さんのラーメンも具が乗っていて(笑)、スープの繊細な味を探るのに邪魔だったんです。それで食べ歩く時にはお店の人にスープと麺だけで、具は別盛りにして下さいって頼んでたんです。お店からしてみれば不思議な客だったでしょうが、これの方がより麺とスープの味や美味さが分かるんですね。もちろん俺がやる前にも渋谷のチャーリーハウスや、青山のだるま屋とか、麺とスープで勝負しているお店はありましたけど。」

板橋「なるほど、そういうことですか。最初からこのメニューだったんですか?」

松井「そう、ずっとこのメニューです。元々はかけラーメン一杯のお店にしようと思ったんですけど、周りの人間がチャーシューもあった方がいいだろう、メンマは?などと言うので(笑)トッピングというか、別皿で出すことにしたんですよ。」

板橋「でもやはりこのスタイルは麺の旨さが分かりますね。この麺は麺線いくつですか?うちの麺は18番なんですが。」

松井「うちは切り刃20番を使っています。それでも以前はもっと細かったんですよ。必勝軒の小林さんに紹介して貰って、最近製麺機を新しくしたんだけど、前の機械は出てくる麺を自分で引っ張っていたのでその分麺が切り刃よりも細くなっていたんです。でも新しい機械はそうではないので、同じ20番なのに以前よりも太めに仕上がってます。モーターやシャフトは自分のいいように交換したんですけど、切り刃も22番にしようかと思ってます。」

板橋「食感もすごくいいですよね。あっさりしたスープによく合います。」

松井「こってりとあっさりは随分悩んだんですよ。それで店をやろうと思ってからまた食べ歩きを始めたんです。それでこってりした背脂の好きなお店があったので通ったんですよ、毎日。そうしたら美味しいと思っていたラーメンが3日目で飽きちゃったんです。でもあっさりしたラーメンは飽きなかった。それであっさりさっぱりした味で行こうと決めました。」

板橋「加水はどのくらいなんですか?」

松井「だいたい45〜46%の加水率ですね。」

板橋「この『光麺』も面白いメニューですね。これでコウミンと読むんですか?」

松井「これは広東語の発音なんですよ。この『光』という字は、中国語で「〜だけ」という意味合いがあるみたいで。台湾などでも『光麺』というメニューは結構あるんですよ。それに沙茶醤を加えたのは俺のアイディアなんですけど。なぜこういう名前にしたかというと、名前を見ただけじゃどんな味か分からないでしょ?そうするとお客さんは『このメニューはどういうの?』って聞いてくれる。そこでコミュニケーションが生まれると思ったんです。だからうちのメニューはみんなそういう名前になってます」

板橋「あ、それは営業のココロと一緒ですね。私はサラリーマン時代に営業をやっていたんですが、全く一緒です。お客さんに聞いてもらうということは、そのお客さんが商品に関心があるということですからね。」

松井「そうですよね。ところで板橋さんはどうしてラーメン屋さんを始めたんですか?」

板橋「そもそもは高校時代なんですけど、東池袋大勝軒のラーメンをよく食べていまして。でも他の仕事を色々していたんですが、やはり自分の店を持って、自分のやりたいようにやってみたいなと思って。やはり食べ物を作って目の前で食べて貰うのって嬉しいじゃないですか。」

松井「食事のシーンって一番幸せを身近に感じる瞬間ですよね。家族や大切な人達としゃべりながら、楽しく食事をする。やっぱり人間じゃないですか、静かに黙って食べるより…餌食ってるわけじゃないんですからね(笑)」

板橋「そうですね。食事は楽しいし、嬉しいですよね。」

松井「だから作る側としてもその気持ちは持っていたいんです。俺は自分の大切な人、家族や友人に美味しいものを食べて貰いたい、そんな気持ちでお客さんに出しているんですよ。」

板橋「よく分かります。お子さんとかがスープを飲み干してくれるとすごく嬉しくて。また半分くらい残されたりするとすごく落ち込んで(笑)」

松井「でもそれは仕方ないことですよ。だから俺は万人受けはしなくてもいいかなと。うちの店にはうちに合っている客というのが必ずいるんです。だから合っているお客さんが来てくれればいい。ラーメン屋ってやり方もあるんでしょうけれど、そんなに大きくは儲からないじゃないですか。当然限界はある。また飲食はデタラメなことさえしなければまず潰れないでしょう?続けていけば必ずその店に合った客が増えていくんですよね。」

板橋「そうですね。うちの麺も好きな方と嫌いな方がいます。」

松井「麺も自分で打っているんですよね?」

板橋「麺の達人の前でお恥ずかしいんですが(笑)麺作りは独学で、製麺機買ってから自分で覚えました」

松井「板橋さんは機械好きでしょ?」

板橋「そうなんです(笑)。小さい時から機械いじるのが大好きでしたね。おじいちゃんの懐中時計を黙って持ち出して分解して(笑)」

松井「元に戻らない(笑)」

板橋「そうそう(笑)。あとはラジオとかもよく分解したり組み立てたりしましたね。何か昔キットみたいなものがあったじゃないですか。」

松井「ゲルマニウムラジオですね(笑)。電池もないのに音が聞こえたりして。コンセントのところにアンテナ線繋いで、家を巨大なアンテナにしたりね。」

板橋「あとネット、金網みたいなものにクリップのアンテナ線を挟んでアンテナにしたり(笑)」

松井「俺も機械好きなんで分かるけど、機械っていうのはその工程をじっと見ていれば原理は分かりますよね。電気はいくら見ていても分からないけど。」

板橋「そうなんですよ。だから私は麺を作ろうと思った時に、まずは本を見て製麺機を作っている会社を探して、工場まで見に行ったりしました。『おたくの製麺機を買うから工場長に会わせてくれ』って言って。」

松井「行動力あるなぁ〜(笑)製麺所に頼むということは考えませんでした?」

板橋「何しろ最初に感銘を受けたお店が東池袋大勝軒でしたから、麺はラーメン店で作るもんだと思ってました。しかしこんな大変なことだとは思わなかった(笑)。作るようになってからは、自家製麺の良さというか違いが分かるようになってきましたね。」

松井「どのくらいの期間練習されたんですか?」

板橋「それが開店の1ヶ月前で(笑)。実はお店自体は開業より前から出来上がってはいたんですよ。看板もついた状態で。でも看板を出しても麺が出来ていないので開けられなくて。麺が出来てないですから当然スープもなかなか決まらない。開業できない日々が続きました。こんなラーメン屋はいないですよね(笑)」

松井「浦安のマルバ、ここの小松っちゃんも開店当初は随分悩んで、味も決まらなくて店が開けられなかったみたいですよ。」

板橋「マルバの小松さんもですか?自分だけかと思っていたんですが、小松さんもそうだと聞いてなんかほっとしました(笑)」

松井「板橋さんの打つ麺の粉は何を使っているんですか?」

板橋「うちは特ナン(日清製粉○特ナンバーワン)です。ここの粉がいいよって製麺機の会社の方に伺って」

松井「いい粉ですよね。うちも特ナンを使っているけど、あの粉は本当にいい。まず粉の色がきれいなんですよね。それはアッシュ(灰分)が少ないということなんだけど、それにタンパクもそこそこあるし。俺は会社にいたときに色んな粉を勉強していて、この粉に出会った時はこれだ!って思いましたね。だからお店を自分でやると決めた時にはもう粉は決まっていました」

板橋「粉で麺は変わりますからね。外麦と内麦はどうですか?」

松井「いわゆる麺全般にはオーストラリア産の粉が一番合うと思うんですよ。もちもちとした食感が出る粉が多いですからね。同じ外麦でもアメリカやカナダの粉は固さが出るタイプですから、パンとかパスタには合うと思います。国内だと瀬戸内産の小麦は甘くていいですね。」

板橋「鹹水はどうですか?うちは市販の鹹水を使っているんですけれど。」

松井「うちは粉末の鹹水をブレンドしています。通常の一般的な鹹水って、ナトリウムとカリウムの比率は6:4くらいなんですが、うちはナトリウム2に対してカリウムが8。食感と臭いを意識してこの配合にしたんですけれど。」

板橋「といいますと?」

松井「ナトリウムが強いと臭いも強くなってくるんですよ。いわゆるアンモニアのような鹹水臭が出やすいんです。鹹水そのものの是非はあると思いますが、基本的に99.98%は茹でた段階で溶出してしまうものなんですね。ph値としては18くらい、強アルカリですから体には良くないものではあると思いますけれど。そう考えれば茹で湯は大変なものですよね。だからうちはすぐ茹で湯を取り替えるんですよ。ずっと茹でていると怖い色になりますよ、茹で湯が。時々勘違いしてつけ麺を割るのに茹で湯使うラーメン屋さんがあるけど(笑)。」

板橋「鹹水の臭いはうちだとつけ麺の時に感じますね。確かに茹で湯は頻繁に取り替えています。というのも、湯がにごってくるんですね。麺がどんどん溶けていっちゃうみたいで。」

松井「いくらなんでもそれはないでしょ(笑)。そんなに長い時間茹でているんですか?」

板橋「いや、そんな長い時間でもないんですけど。ずっとやっていくと麺がなくなっちゃいますよ。粉屋さんには熟成が足りないんだと言われましたが。」

松井「それは熟成以前の問題ですよ(笑)。どのくらいの配分でやっているんですか?水とかは。」

板橋「40%弱の加水、39%くらいです。」

松井「粉は何キロでやってるんですか?」

板橋「7kgですね。」

松井「それをどのくらいの時間練っているんですか?練り上がりの状態も気になるな。」

板橋「10分くらいでしょうか。冷水で冷やしながらやっているんです。室温だとうまくまとまらないので…」

松井「はっきり言ってミキシングが足りないですよ。俺がその配合でやるんなら20分はやりますね。」

板橋「15分がミキシングは限度という話を聞いたものですから。」

松井「配合はもちろんですけれど、その日の気温や湿度、粉の状態なども考えれば、ミキシングの時間は一概には決められないんですよ。練り上がりの状態がもちもちした感じ、握って見たときにもちもちした状態であったら、まず麺にしても煮崩れはありえないはずなんです。熟成はどのようにしていますか?」

板橋「丸2日にしています。19度の部屋に置いています。」

松井「19度ですか?なぜその温度なんですか?」

板橋「クーラーがそれ以上冷えないんですよ(笑)」

松井「冷蔵庫に入れないんですか?」

板橋「冷蔵庫も試してみたんですが、完全な熟成をしないんですよ。」

松井「いやいやそんなことはないですよ。うちは冷蔵庫で寝かせていますから。熟成しないのはやはりミキシングに問題があるんです。熟成というのは粉と水が均一に混ざり合った状態のことをいうんですが、10分だとそれは無理ですよ。空気も抜けていないでしょう。そもそも食品は原則として10何度では腐敗菌が発生しますから持たないんです。ですから品質を保つ為にも低温がベストです。」

板橋「ミキシングが足りないんですか…」

松井「やはり麺の工程ではミキシングが肝要ですね。ミキシングによってグルテンが出ます。グルテンが出ていないとその後の製麺は出来ません。麺帯にすらならなくなってしまう。」

板橋「なるほど…」

松井「最初の麺厚はどのくらいにしていますか?」

板橋「まず3mmですね。」

松井「え!いきなり3mmですか?それは負担が生地にかかりすぎているなぁ。ダメージかなり受けていると思いますよ。麺の特性としてダメージを受けたら復元しようとするんです。だからまたロールにかける。その繰り返しを通してゆっくり厚さを薄くしていくんです。」

板橋「どのくらいから始めたらいいんでしょうか?」

松井「理想は3cmくらいから絞っていければいいんでしょうけど、それは無理だから1cmくらいからですか。そして薄くなった麺帯を合わせたらまた通す。合わせて通すのと合わせないで通すのでは全然食感に違いが出ますよ。生地が締まってくるし、麺に強さが出てきます。」

板橋「カチカチになったり、麺帯にならないというのはそういう部分なんですね。」

松井「しっかりと練って、段階を経て伸ばしていくのが基本です。そして低温で熟成させる。熟成は最終的には分子レベルで一緒になっていきますから。自分は3〜4日目の麺がベストの状態で好きな麺ですね。ちなみに茹で時間はどのくらいですか?」

板橋「3分です。」

松井「加水率が約40%で…麺線が18番、それ長いですね。麺は可食状態で75%くらいの水分が丁度いいはずですから。もちろん仕上げたい食感で違ってきますけれど。九州などの麺でバリカタなんていうのは60%くらいかな。なんか色々偉そうにすみません(笑)」

板橋「いえいえ、とんでもないです。こんな話聞かせて貰って…、ありがとうございます!何しろ自分で独学でやり始めたばかりなので…。」

松井「板橋さんが今の麺がいいならよその者が口出しすることではないんですけど…。もしよかったら明日でもうちの製麺を見にいらっしゃいませんか?」

板橋「え?よろしいんですか?」

松井「情報交換や意見交換ってすごく大切だと思うんですよ。特に四天王をやってからそれを感じたんです。俺もずいぶん勉強になったんですよ。」

板橋「ありがとうございます!早速明日また伺わせて頂きます。」

松井「そうしたら今度は麺を打つ時に見せて下さいよ。お店までお邪魔しますので、ご迷惑じゃなかったら。」

板橋「とんでもない!こちらこそよろしくお願いします!」

松井「これからもお互いに美味しい麺を作ってお客さんに喜んで貰いましょう!」